THE HISTORY OF 9MEMBER VOLLEYBALL

9人制バレーボールの歴史

競技としての歴史

文:元パイオニア監督 大岩辰裕
引用元:『バレークロニクル』(日本文化出版)

日本のバレーボールには元々 9 人制バレーボールが主流として定着してきた歴史がある。大会の始まりは 1927(昭和 2)年「全日本排球選手権」として男子大会が開始。翌年には兵庫県に男女それぞれ 6 チームが集い、男子は神戸高商が二連覇、女子は愛知淑徳女が初代優勝に輝いている。その後、1947(昭和 22)年に「実業団選手権」が開催されたことに伴い「全日本総合選手権」に改称。バレーボールのメインが 6 人制に移行するまで、文字通り日本の最高峰のバレーボール大会として、1950(昭和 25)年には天皇杯・皇后杯が下賜される大会となっていた。歴代優勝チームには、現在 V リーグで活躍するチーム名が多数並び、”東洋の魔女”の母体となった「日紡貝塚」も歴代優勝チームに名を残している。このように、日本バレーボールの歴史は 9 人制から始まり、現在日本のバレーボール界最長の大会は「全日本 9人制バレーボール総合選手権大会」となっている。また、同大会以外では、過去には「黒鷲旗都市対抗優勝大会 1990(平成 2)年~ 2001(平成 13)年」や「国民体育大会」も実施されていた。特に 1946 年(昭和 21)年から始まった「国民体育大会」の第 1 回大会は 9 人制のみが開催され、高校男女も 9 人制で競技が実施された。その後 9 人制は実施種別から除外、追加を繰り返し、現在は 2010(平成 22)年開催の千葉国体を最後に国体種別からは除外されている。

現在開催されている 9 人制の全国大会は、登録連盟に制限なく出場可能な「全日本総合選手権大会」、実業団登録の「全日本実業団選手権大会」「櫻田記念・全日本実業団選抜優勝大会」、クラブ登録の「クラブカップ選手権大会」、実業団とクラブ登録チームが出場可能な「全国社会人優勝大会」などがある。現在、実業団チームは母体企業の経営状況の影響、クラブチームはスポーツの多様化などから登録チーム数は減少傾向にあり、特に実業団女子はチーム数が激減しており、バレーボール人口の男女比で考えると、実業団の登録数は女子の方が少ないという逆転現象も起きている。このような背景から、実業団女子の監督達が立ち上がり、チーム、各連盟(実業団・クラブ)、そして日本バレーボール協会が三位一体となり、2015(平成 27)年から男女 8 チームが参加する全日本 9 人制バレーボールトップリーグ戦「V9 チャンプリーグ」を開始した。

1961年の全日本九人制バレーボール実業団女子選手権大会の決勝戦、倉敷対日紡における倉敷HL背野のスパイク。ダイナミックさには欠けるが、それをテクニックでカバーする好プレイ
1961年に開催された第16回国民体育大会秋季大会の高校男子9人制。岡山東商のエース名越のスパイク。9人制では3枚ブロックが当たり前で、時には4枚ブロックがコースを塞いだ

技術・ルールの歴史

文:元パイオニア監督 大岩辰裕
引用元:『バレークロニクル』(日本文化出版)

6 人制と比べ 9 人制の特徴的なルールを以下にあげる。

  • ポジションのローテーションがない。
  • ネットの高さが違う(一般男子 2.38m、一般女子 2.15m)
  • アンテナの位置が違う
  • 男子はコートの広さが違う(10.5m)
  • サービスは一度失敗しても、もう一度だけ打てる。
  • ブロックにおいては、ネットを越えて、相手方コート内にあるボールに触れた時はオーバーネットの反則となる。
  • ブロックが 1 回の接触としてカウントされる(残り 2 回で返球する)。
  • プレー中、ボールがネットに触れた場合は、もう 1 回ヒットすることが可能になる(合計 4 回で返球することができる)。

以上のように 6 人制とは異なるルールを有することから、9 人制はより専門性の高い技術が発達してきた。また、バレーボールは高身長者が有利なスポーツであるが、9 人制は 6 人制と比較して高身長者が絶対有利ではなく、適材適所での活躍の場があり、勝敗要因がチーム力や戦術によるところが大きい点も特徴の一つである。こうした技術・ルールの特徴が、オリンピックの正式種目として 6 人制が世界のスタンダードになった後も、すべてのチームが 6 人制に移行せず、9 人制は特に企業スポーツを中心に独自の発展をしてきた理由と考えられる。

9 人制においては、日本独自の競技であることからも、6人制に比べて大きなルール改正が少ない。しかし過去、戦術が大きく変わり、チーム強化の方向性までも変わるルール改正があった。1995(平成 7)年のシーズンから、ブロックの後に続けてボールを触れることが可能となった。6 人制では可能なブロック後の連続接触が、9 人制ではダブルコンタクトの反則であったことから、高度な技術習得を必要とし、その面でも低身長者に有利なルールであったと言える。この、ルール改正によりそれまで通用した技術・戦術が使えなくなったり、前衛選手の大型化を助長したことが考えられるが、ダイナミックな攻撃とそれをつなぐラリーの応酬は見応えのあるものへと変化したと考えられる。

近年、9 人制のルールを 6 人制に近づけようとする意見もあるが、9 人制の選手(主にセッターとレシーバー)が V・プレミアリーグに移籍したり、6 人制の日本代表候補になるなど、高校、大学卒業時には目に止まらなかった選手が 9人制で技術を磨き、6 人制から注目される選手になることは9 人制の存在価値の一つでもあり、その根幹であるルールは守っていきたいと考える。

最後に、ここまで競技性の高い面を説明してきたが、9 人制は人数が多い分、一人当たりの運動量が少なく、高齢になっても楽しむことのできる生涯スポーツとしての一面も持ち合わせていることを付け加えておく。

2010年、9人制の開催が最後となった千葉国体にて
9 人制の日本一を争う全日本総合選手権大会が毎年行われている

【コラム】9人制バレーボールは「速い」「強い」「巧い」

文:静岡産業大学 塚本博之
引用元:『バレークロニクル』(日本文化出版)

9人制ではサーブの試技が2回あるため、1stサーブは全力で打つことができる。しかも6人制よりもネットが低く、男子においてはコートも広い。必然的に6人制よりもスピードの「速い」サーブを打つことが可能である。一方、レセプションは速くて力強いサーブを受けるため、ボールとの接触面積が広いオーバーハンドが主流となる。ここにオーバーハンドの「強さ」が要求されてくる。また、ブロックのワンタッチは1回の接触とカウントされるため、次のディグを正確にセットしなくてはいけない。これには「巧さ」が要求される。9人制はポジションに制限がないため、トップレベルのチームにはこうした「強さ」と「巧さ」を兼ね備えたレセプション&ディグ専門の選手が配置されている。6人制のバックゾーンにリベロが3人いると考えれば、そのディフェンス力は容易に想像できるであろう。

また、「巧さ」はネットプレーにも象徴される。ボールがネットに接触すれば合計4回ボールをヒットすることが可能なため、これは様々な場面で応用できる。まず、レセプションが乱れてネット付近に返球されたとき、セッターは自らネット下段にボールをぶつけ、そこから跳ね返るボールをコントロールしてセットするのである。熟練したセッターはボールをネットにぶつけた後、クイックや時間差攻撃を繰り出すなど、6人制では思いもよらない想像力に溢れたプレイが可能となる。さらに、9人制ではチャンスボールで返球せざるを得ないラストボールであってもスパイクで打ち返すことがある。たとえ失敗してネットに当たっても、その跳ね返りを返球すればよいのである。したがって、セットがネットから離れていようがお構いなしで「強く」て「速い」スパイクを打ち込もうと試みる。

ブロックに関しては、5人ないしは6人のバンチリードシステムと考えてよいだろう。ほとんどのスパイクに、複数枚のブロックがつくのは常である。また、オーバーネットが許容されないため、同じ高さの壁を作ることが重要であり、6人制の囲い込むようなキルブロックは存在しない。したがって低身長のスパイカーであっても「巧み」にブロックを利用したスパイクを打つことが可能となる。

このように9人制は、速さや力強さの中にも巧みさがミックスされ、目を瞬く暇もないほどのラリーの応酬が魅力といえる。しかし一方で、プレイの専門性が高いわりには一人当たりの運動量が少ないため、生涯スポーツとしての一面も持ち合わせている。男性では40歳以上の「日本スポーツマスターズ」、50歳以上と60歳以上のカテゴリーがある「ヴィンテージ8’s交流大会(8人制)」、女性では35歳以上の「日本スポーツマスターズ」、50歳以上の「いそじ大会」、60歳以上の「ことぶき大会」など、何歳になってもバレーボールを楽しむことができる。実はこれが9人制の最大の魅力ではないだろうか。